動物病院のM&A|成功のポイントと失敗しないための実務
近年、地域に根差した動物病院業界におけるM&A(合併・買収)や売却を含む事業継承は急速に増加しています。後継者不足、獣医師の採用難、経営の高度化といった問題を背景に、「第三者承継」という選択肢が一般化しつつあります。
- ・動物病院M&Aが増えている理由
- ・M&Aで失敗しやすいポイント
- ・成功に不可欠なデューデリジェンス(DD)の考え方
- ・買収後のリニューアル・再成長戦略
について、実際の事例も踏まえながら実務ベースでわかりやすく解説します。
なぜ今、動物病院M&Aが増えているのか

後継者不足の深刻化
個人開業の動物病院では、院長の高齢化が進む一方で、事業承継候補となる獣医師が見つからないというケースが増えています。
「廃業」か「売却」かを検討する中で、院内の組織や管理者体制を維持できる第三者承継を希望される院長も少なくありません。
獣医師・優秀な愛玩動物看護師の採用難
単院経営では採用力に限界があり、複数病院を展開する会社によるグループ経営・法人化によるスケールメリットが注目されています。また、MRI検査や高度画像診断、セカンドオピニオン対応など、高度医療を提供できる体制構築が求められる中、設備・人材・防災面を含めた院内構造の整備が単独経営では大きな負担となっています。
M&Aは、人材確保だけでなく、より良い医療環境と組織づくりを実現するための有効な選択となっています。
経営の専門性が求められる時代
医療の質だけでなく、
- ・マーケティング
- ・人事評価制度
- ・収益管理
といった経営力が不可欠になり、経営ノウハウを持つ買い手とのM&Aは経営上の問題を解消する手段としても有効な選択肢となっています。
動物病院M&Aで最も重要な「デューデリジェンス(DD)」
M&Aを成功させる最大のポイントは、DD(デューデリジェンス)=買収前調査です。
動物病院M&Aでは、特に以下の3つが大切になります
財務DD(税理士が担当)
財務DDでは、
- ・売上・利益の実態
- ・医薬品・人件費の構造
- ・将来の収益性
- ・資産・負債状況
- ・税金などの支払い状況の確認
を、客観的な財務資料に基づき精査します。
しかし、数字だけを見て判断するのは非常に危険です。過去の実績だけでなく、地域性や診療スタイル、院内オペレーションの構造を踏まえ、将来どれだけ収益を生み出せる資産価値があるかが重要になります。
これにより、譲渡価値の試算を行い、買収価格の指標の一つとします。
法務DD(弁護士が担当)
法務DDでは、
- ・訴訟・紛争リスク
- ・契約関係(雇用契約・賃貸借契約・各種業者との契約など)
- ・資産・負債状況
- ・従業員との雇用関係
を精査します。特に動物病院では、スタッフとの関係性や雇用条件などの労務管理体制が買収後の安定運営に大きく影響します。
これにより、法務的な買収リスクを指摘し、買収時の指標の一つとします。
ビジネスDD(コンサルティング会社等が担当)
動物病院M&Aにおいて、最も差が出るのがビジネスDDです。
ビジネスDDで実施すべき内容
- ・商圏分析
- ・5か年売上シミュレーション
- ・競合調査
- ・事業計画書作成(事業戦略含む)
- ・買収先の経営者および従業員との面談
- ・財務DD・法務DDの全体管理
これらを通じて、「この病院は、買収後に伸ばせるのか?」を定量・定性の両面から判断します。
動物病院M&Aでよくある失敗パターン

01数字だけで買収を判断してしまう
動物病院M&Aで最も多い失敗が、売上や利益といった数字だけで買収判断をしてしまうことです。 一見すると黒字で安定している病院でも、実際には「院長の属人性が極端に高い」「特定のスタッフに依存している」「競合増加で将来性が低い」といったリスクを抱えていることがあります。
解決策としては財務データだけでなく、
- ・院長・スタッフの役割分担
- ・患者が病院を選んでいる理由
- ・競合環境や立地の将来性
といった問題を抱えているケースがありますので、院内の役割分担や管理体制に基づきビジネス視点での精査(ビジネスDD)を行うことが重要です。
「なぜこの病院は今の売上を維持できているのか」「買収後も再現できるのか」を言語化できる状態が理想です。

02買収後の運営イメージが曖昧なまま進めてしまう
M&Aを「引き継ぎ」と捉え、買収後の運営設計を十分に考えないまま進めてしまうケースもよく見られます。
結果として、スタッフの混乱や方向性の不一致が起こり、業績や雰囲気が悪化することがあります。
解決策としてはM&Aは「買って終わり」ではなく、「買ってからが本番」です。
買収前の段階で、
- ・診療方針をどうするか
・組織体制・管理者配置をどう再設計するか
・どのタイミングで何を変えるのか
といった中長期の事業計画とロードマップを描いておくことが大切です。
具体的な買収後の取組は後述します。

03スタッフへの説明・配慮が不足している
動物病院は人で成り立つ事業です。
M&Aの情報が突然共有されたり、意図が伝わらないまま体制変更が進むと、スタッフの不安や不信感が一気に高まります。
その結果、優秀な獣医師や看護師が離職してしまうこともあります。
解決策
M&Aにおいては、スタッフコミュニケーションの設計が非常に重要です。
- ・現院長と買い手側の役割分担を明確にする
・変更点と変えない点を丁寧に説明する
・不安や疑問を吸い上げる場(相談の場)を設ける
など、「人」を中心に据えた進め方を意識することで、組織の安定性は大きく高まります。

04現院長との関係性が悪化してしまう
M&A後、現院長が残るケースでは、立場や意思決定の境界が曖昧なまま運営が始まることがあります。
これにより、現場が二重指示状態になったり、スタッフが混乱する原因になります。
解決策としては現院長がどの立場で、どこまで関与するのかを、事前に明確に合意しておくことが重要です。また、第三者が間に入り、コミュニケーションを調整することで、感情的な対立を防ぎやすくなります。
見動物病院M&Aを成功させるための3つの視点
① 医療 × 経営の両立
獣医療の質を落とさず、経営としても成り立つ仕組みづくりが重要です。新しい獣医師が勤務する場合は、従来の獣医療のやり方や方針との違いをしっかりと整理し、飼い主様や愛玩動物看護師に混乱をもたらさないようにする必要があります。
② 人を中心に据えた設計
動物病院は働く人(獣医師・看護師・受付)がすべてです。スタッフとの信頼関係を軸にしたM&Aが成功を左右します。従来のスタッフを再雇用する場合は、新しい経営者に変わった際に、方針の説明と変更点をしっかりと説明・同意をとり、信頼関係を生み出す必要があるのです。
③ 中長期視点での事業戦略・ビジョン策定
短期的な利益ではなく、3年・5年・10年先を見据えた事業計画が必要です。従来の動物病院の経営方針と異なる場合は、生まれ変わった動物病院として周辺病院との差別化と数値計画を立案する必要があります。
動物病院M&Aは「準備」で8割決まる

動物病院M&Aは、
- ・正しいDD
- ・買収後の明確なビジョン
- ・専門家による一気通貫のサービス
が揃ってはじめて成功します。
単なる売却ではなく、「動物医療を次世代につなぐ事業継承」として、慎重に検討することが重要です。
※動物病院M&Aに関する無料相談も増えており、早期に専門家へ相談することが成功への近道となります。
執筆者
Profile

株式会社ねこのタミ 代表取締役 辻 建三
実際に動物病院の開業を経験したことで、無駄のないセンターピンをおさえたリアリティのあるアドバイスを実施します。動物病院の経営コンサルティング経験を生かし、開業後に持続的に飼い主様に選ばれ続ける病院作りを見据えた開業を体制を構築していきます。
また、ゴールが「開業」ではなく、「開業後しっかり繁盛するか」に定めており、黒字化するまでサポートを実施しています。
医療関係者とは500件以上接点があり、医療関係のセミナーを10年以上計100件以上
コンサルティング実施先は約80~100社
評価構築サポート 100社以上
EDUWARD Press 執筆
パナソニック株式会社 執筆